菓子売りの絵描き
おなか痛いからトイレに入ってる時間が長くて、早上がりさせてくれた。
夕方また呼ばれたらまた出勤。
人が足りなかったり忙しくなるとすぐ呼ばれる。
暇だと思われてる。
暇だけど。
帰るならポップ書いてきて、ってポップセット持たされた。
家で書くと時給貰えないから職場で書きたいのに、仕事中はそんな暇がない。
いつのまにかポップ書きは「宿題」にされてる。
その代わり、好きなように書かせてくれる。
ポップ書きが私の担当になったのは理由がある。
お菓子の発注担当のモンデンさん(仮名)が前からよく発注を間違える。
モンデンさんはオープニングスタッフのひとりだから、職場では一番のベテラン。
でもものすごく仕事のミスが多い。
だけど一番のベテランだから店長以外怒れない。
モンデンさんは50代の主婦。
店長は自分より年上の女の従業員には敬語を使う。
怒る時も敬語でぺこぺこするから、おばさん従業員たちからだいたい言い返されて負けてる。
モンデンさんは何度注意されても気にしないから、時々お菓子が大量に納品されてくる。
2箱頼めばいいポテチが20ロット来るとか、大量誤発注のベテラン。
それを売り尽くす係が私。
1箱だけ来るはずのノド飴が100箱来た時は、いろんな他店にひきとって貰えないかお願いの電話かけさせられたのも私。
お店では安売りしてるわけじゃないのに目立つところに特別コーナー作って、沢山ポップを貼りつける。
高校のバイトの時にその大量セールのポップ書いたら、常連のお客さんが、
「これ可愛い絵だね」
って店長にほめた。
字だけじゃ足りない気がして絵も描いたから。
その日からポップの担当にさせられた。
モンデンさんは誤発注するたびに、私の携帯に、
「※※※(誤発注した商品名)、早めに売って」
ってメールしてくる。
なかなか売れないと、ポップの書き直しさせられる。
私よりぜんぜん絵がうまい男のバイトがいる。
このブルータス(仮名)も大学中退して正社員にもなれなくて、私みたいに親からニート禁止って怒られて、しょうがなくてうちにバイトで入ってきた人。
ブルータスは私のポップの絵を見て、いつも、
「オレのほうがうまい」
って威張る。
ほら、ってレシートの裏に同じ絵をもっとうまく描いて見せてくる。
「ブルータスのほうが絵がうまいです。あっちの絵のほうが売れると思います」
店長にしつこく言ったら、一度ブルータスが書かされた。
あいつはわざと下手っぴに書きやがった。
絵も字も。
ポップの宿題したくなかったから。
「あんな絵も字もダメな人にやらせないで」
私が怒られた。