ガムボトル買い取り
32度の 気温を見たら 涼しい! って思うカラダ 猛暑に慣れすぎ
昨日はキレた。
夜中までの補充シフトで4時間入ったけど、通常シフトの人は前半は夕勤の人で、後半の夜勤はカトリーヌさんとブルータスだった。
私が働いている途中でカトリーヌさんが出勤してきて、補充の分が追加されたシフト表見てた。
それから、フロアで品出ししていた私のとこにどすどす足音たてて来て、
「なんでミカサが入ってるの」
ってドスきいた声で怒ってきた。
ものすっごい睨みつけてきて、その顔にびっくりした。
なんでおばさんの年した人が、自分の不機嫌な感情を、あんなふうにバカみたいな表情で見せれるのかわからない。
カトリーヌさんだけじゃないけど、おばさんたちは職場で感情出しすぎ。
楽しい感情ならいいけど、ヘーキで家から機嫌悪いの持ち込んでくる。
だから来た時から一目で不機嫌ってわかる態度。
いつもとぜんぜん口調が違ってツンツンしてたり、いちいち物にあたって音たてたりするおばさんが何人かいる。
次郎君はそういうおばさんたちをすごく嫌ってる。
というか軽蔑してる。
自分ちで夫や子供にヒステリー起こしてもヘーキな家庭の感覚と、職場の区別がつけれない主婦は働きに出てこないでほしい、っていつも言ってる。
主婦でもちゃんと仕事出来る人いるけど、そういう人は家でも自分の感情ってコントロール出来るんだと思う。
「シフトのことなら、店長に勝手に決められたんです」
って私はフツーの口調で答えた。
「どうして?ミカサが入りたいって言ったからでしょ!」
って決めつけてきた。
「違いますよ。私だって入りたくないし。でも、勝手に入れられたんです」
って説明した。
「ウソつくんじゃないよっ!!!!!」
そしたら、お店中に響きわたるようなおっきな声で怒鳴った。
立ち読みしてたお客もびっくりしてこっち見た。
「ウソじゃないです。店長に聞いてください」
って私がフツーに言ったけど、
「ウソ!このウソつき!あんたはいつもヘーキでウソつくね!だいたいミカサは前から自分勝手なんだよ!!店長に甘やかされてるからっていい気になるんじゃないよ!!!」
ってずっと怒鳴り続けた。
「なんでウソって決めつけるんですか。だったら店長に今電話して聞いてください」
って言ったら、
「だいたいあんたなんてブス、キモイんだよ!ちやほやされていい気になりすぎてんだよ!性格ブス!!あんた、自分がわかってんの?ドブス!仕事が出来る気になってるみたいだけど、あんたと一番組みにくいんだよ!ここの女のパートたちはみんなそう思ってんだよ。ミカサのこと、性格ブスってみんな言ってんだよ。知らないの?自分が可愛いと思っていい気になりすぎてんだよ!そよかぜとあんたは女の人たちからは嫌われてんだよ!!」
って、耳元で唾飛ばされながら怒鳴られ続けた。
お客が何人もいるお店の中でこんな怒鳴って、カトリーヌさん、狂ったのかと思った。
私はムカつくより、カトリーヌさんのバカらしさにもうつきあいきれない、と思って、黙ってバックヤードに入った。
バックヤードには夕勤やってたクラリスさんがいて、クラリスさんも店内のカメラのモニター見ててすっごいびっくりしてた。
「大丈夫?ミカサちゃん」
って聞かれたから、
「お店で騒ぐとお客さんに悪いから、品出し途中で入ってきちゃった」
って言った。
「当たり前だよ。何考えてんの。ちょっとこれ、店長に言ったほうがいいよ。カトリーヌさんがなんで怒ってるのかはわからないけど、一応ここはお店なんだから、あんなことしたらダメだよ」
って、クラリスさんはすごく冷静な口調で言ってきた。
そしたらそこに、カトリーヌさんがどすどす入ってきた。
「すいません。さっきの聞こえたと思いますけど、みなさんに迷惑かけてすみませんでした。私が責任とります」
ってクラリスさんに言った。
「私に迷惑とかはどうでもいいんだけど、フロアではまずかったんじゃない?」
ってクラリスさんは、カトリーヌさんにも冷静に言った。
「だから私が責任とりますよ。大丈夫です。今のミカサとは一緒に仕事出来ないから、ミカサを怒ったことは悪いと思いません」
ってカトリーヌさんがクラリスさんに、きっぱり言い返した。
「でも、お客さんがいるところでやるべきことじゃないでしょ。それに、あんな口調じゃなくて、バックで普通に話せばいいことじゃない?」
ってクラリスさんが言うと、
「だから私が責任とりますよ。私はお客の前でもいい、と思ったんです。それぐらいのこと、ミカサはしてるんですよ。夜勤のミカサ知らない人にはわからないと思いますけど」
って言い返して、カトリーヌさんはまたどすどすフロアに出ていった。
クラリスさんはもう帰らなくちゃいけない時間だったから、
「よくあんな人と組めるね」
って私を心配して言ってくれた。
クラリスさんは、ふだんは人の悪口言う人じゃない。
「店長に言ったほうがいいよ」
って言われたから、
「いーです。あの人、いつもああいう人だから」
って私が言ったら、
「それ、違うよ」
って言われた。
「ミカサちゃんがガマンすればいい、って話じゃないよ。従業員がフロアであんなふうに怒鳴るのはお店の問題だから。お客さんは、ああいうカトリーヌさんに不愉快になったら、お店にもう来なくなっちゃうんだよ。だから、これは店長に報告しなくちゃいけないことなの。言いつけるとかってことではないの」
って諭された。
「私からも、この時間のビデオを確認してください、って報告あげとくね。ビデオ見れば店長もわかるだろうから、言いつけたのとは違うからね」
って、店長に報告のメモ残してクラリスさんは帰った。
私はまだ仕事が残ってたから、またフロアに戻ったら、カトリーヌさんがまたそばに来た。
「なにクラリスさんに言いつけてるの」
って、またどすきいた声で言われた。
「言いつけてないですよ。カメラでぜんぶ見られてただけですよ」
って、私は品出ししながら言った。
「そういうところが性格ブスっていうの。自分がブスだって自覚ないんでしょ」
ってカトリーヌさんは、お客には聞こえない声で言ってきた。
「これもぜんぶカメラであとで確認されますよ。クラリスさんが、カメラ確認をお願いしますって店長に報告残していきましたから」
って、報告のこと教えといた。
そしたら、すごい睨んで、どすどすレジに戻ってった。
でも、私が仕事してるあいだ中、時々そばに来て、カメラのマイクに拾われないような小さい声で、
「性格ブス」とか、
「ミカサ、なんか臭いよ、いつも。あんた、体臭と口臭あるよね」とか、何度もそういうこと言ってきた。
私はずっと黙って仕事続けてた。
高校の時にいじめてきたバイトの先輩みたいだと思った。
そしたら、ブルータスが、
「いい加減にしなよ。女はくっだらねーことばっかしてんな。ここは仕事する場だろ。仕事しろよ」
って、カトリーヌさんと私のとこに来て言った。
「ここの若い女の子たちって、男がいる時といない時と私たちに態度が違うんだもん」
って、カトリーヌさんが可愛らしい声でブルータスに笑った。
「そう?そよかぜさんは可愛いけど、ミカサはいつもオレらの前でもこんなだよ。こいつぜんぜん可愛げないから」
ってブルータスが言った。
私は二人が話してても、ずっと黙って品出ししてた。
「おまえも悪いよ、ミカサ。仕事なんだから、カトリーヌさんのこと無視するなよ」
ってブルータスが言った。
そしたら、カトリーヌさんが、
「夜勤で二人になると、いっつもこうなんだよお。ミカサに無視されんの。ミカサ、おっかなくて」
って、また可愛らしい喋り方して、どすどすレジに戻ってった。
カトリーヌさんがいなくなってから、ブルータスが、
「おまえもバカだな。ああいうのは適当にあしらっておけばいいのに。そういうムキになるとこが、おまえはまだガキなんだよ」
って私に威張ってきた。
「ハア?」
って私はキレて、品出ししてたガムのボトルでブルータスの頭殴った。
「ふざけんなよ、なにすんだよ」
ってブルータスがキレてたけど、私はもっとキレてた。
「商品で殴っちゃったから、これ買い取ってくる」
って、私は財布取ってきて、ブルータス殴ったガムボトルをパッケージごと買った。
補充で入った分の時給がこれで飛んだ。
「オレが買うよ。オレのせいもあるんだから」
って、ブルータスが言ったけど、私はブルータスのことはほんとに無視した。
仕事が終わって帰る時、
「明日は無視してこないでね」
ってカトリーヌさんに言われた。
土曜の夜勤はまたカトリーヌさんとだったから。
「カトリーヌさんも性格ドブスからお金借りたりしないでください。私のお金も臭いでしょ。臭いお金、明日、返してください」
って顔も見ないで言って帰ってきた。
今日は昼勤で、店長から呼ばれた。
「カメラ見てってクラリスさんがメモ残してたけど、今日はオレ、見てるヒマないんだよ。何あった?口で言って」
って、めんどくさそうに聞いてきた。
「品出ししてたらガムつぶしたからガムのボトルぜんぶ買い取ったんです。だからまた発注しといてください。売場に一個も出てないから」
ってだけ言った。
クラリスさんのいうように、私は大人になりきれてない。
今夜もカトリーヌさんと組んで、大人になりきれない気がする。
本音は、カトリーヌさんともう組みたくない。
ブルータスには次に組んだ時は無視してやるけど。
あいつには大人になる気、ぜんぜんない。
必要も感じない。