おばさんテロ
地面には ケヤキの枯れ葉 早くない? セミ鳴いてるし 季節がヘンすぎ
お客さまからの苦情や要望を書きとめるノートがあるけど、うちはその時受けつけた人が書いて、従業員たちが読んだサインしたら、それでおわり。
そのノートは使い終わると、テキトーにどこかに放り込まれて、それでおわり。
注意事項の賞味期限って、ノートでみんな確認した時から一週間ぐらい。
それすぎると、特におばさんたちはすぐ忘れて、注意を守らなくちゃいけないことを守らなくなる。
おばさんたちは、若いバイトは仕事ができないとか、仕事なめてるってすごい言うけど、うちの場合、おばさんたちのほーが仕事なめすぎ。
なんで「注意事項」をずっと守れないかって考えてみた。
それは、なんで「守らなくちゃいけないか」ってことを、おばさんたちは理解しないからだと思った。
最近、うちは職場の雰囲気が一気に悪くなってるから、苦情もすごい増えた。
その苦情がいろいろばらばらに書かれてるノート見てて、なんとなく気になって、今までの苦情ノートも見て、その苦情の発生時間帯を書き出してみた。
そしたらほとんど、おばさんたちの時間帯の苦情だった。
夕勤は高校生のバイトが中心で、バイトはじめてっていう子も多いから、この時間帯がいちばん質が低いと思ってたけど、いちばんひどかったのは昼間の時間帯だった。
昼間はベテランのおばさんたち中心の時間帯。
カトリーヌさんとかおばさんに名指しで来た以外は、夜勤がいちばん優秀。
売り上げが落ちてるっていうのも、早朝から昼勤の間がいちばんひどいっていうし。
この時間帯の苦情って、ほんとにお客さんがホンキで激怒するのわかるー、っていう苦情が増えてる。
お金がからむ苦情とか、接客態度の苦情とか、店内の状態の苦情とか。
苦情がくる従業員もだいたい決まってて、似たよーな苦情がおなじ人にきてる、っていうのも結構ある。
そーいう苦情は、だれに来たとかは書かないで、ぜんたいの問題としてノートに書いて、ぜんいんがテキトーに読んでサインするだけだから、苦情受けた本人は自分のことってわかってない時もあるし、あまり自分の問題って考えてなかったり。
袋に商品入れ忘れ、のミスのランキング1位はカトリーヌさん。
たいらなレジ台にカゴから出した商品を、なんでそんなに入れ忘れるのかわかんない。
でも一緒に組んだ時見てると、ほんとに目の前にある商品入れ忘れてるし。
なんども入れ忘れてるんだから、自分で気をつければいーのに、気をつけよーって思ってないから、おなじことバカみたいに繰り返す。
「二度とお宅に行かないから」
っていうすごい苦情が最近、何件もきた。
この1~2年で、近所にいろんな系列のこーいうお店がすっごい出来たから、お客さんも選択肢が増えて、ガマンして買い物しなくても済むよーになったし。
売り上げが落ちてるって、こーいう「二度と行かないから」っていう苦情が増えてるのと関係してるんじゃないの?って思った。
この前も、夜勤でだいたい毎晩、3000円ぐらい買い物してくれる常連さんから苦情来たし。
これは夜勤に対して、っていう苦情とは違った。
この常連さんは、いつもいろいろ買い物して、それからタバコを買ってくれる人。
そのタバコが何回か立て続けて、「品切れ」だったんだって。
それで、私が入った時、とーとーキレちゃって、
「お宅に何年も来て、オレがどのタバコ買うかちゃんとわかってるはずだろ。そのタバコを仕入れないっていうのは、オレはもう来なくていーってことなんだろ」
って怒鳴られて、いろいろ商品いれたカゴをレジにバン!って叩きつけて出てっちゃった。
慌ててそのお客さんを外まで追いかけて、お詫びした。
「タバコの担当者(昼間のおばさん)に、お客さまのご利用のおタバコ切らさないよーにちゃんと申し伝えますから」
って言ったけど、
「この前からそー言ってて、ぜんぜん入れないじゃないか。こっちはこんな夜中にほかはまわりたくないんだよ。タバコ欲しくて、それでついでに買い物してるだけだったんだから、タバコはこれから※※(近くの違う系列のお店)で買うから。あっちに移ったら悪いと思ってたから、こっちで買い物してやってたのに」
って、すごいキレたまま帰っちゃって、それでほんとーにもー来なくなっちゃった。
それ、アンジェラさんに言ったら、
「そんなこといっても、こっちも仕入れの都合ってあるからねー。客ひとりに合わせてらんないでしょ」
って。
苦情は聞いてたのに、仕入れの担当に伝えてないの、それでわかった。
「でもあの人、毎晩何千円も買ってくれた人ですよ。こーいう店で一回に何千円買ってくれるって、すごいありがたい常連じゃないですか」
って言ったけど、
「そんなの関係ないよー。いちいちお客の都合に合わせてらんないから」
って言い返された。
「だからうち、売り上げ落ちるんじゃないですか」
って私も言い返したけど、
「ひとりぐらい減っても関係ないから」
って。
その、「たかがひとり」を、ひとりずつ減らしていったから、売り上げ落ちたんじゃないの?
ガム1個しか買ってくれないお客さんでも、そーいうお客さんがいろいろ来て、お店の売り上げになるんじゃないの?
「たかがひとり」のお客さんはどーでもいー、っていう考えって、結局、お客さんなんてだれもどーでもいー、ってこととおなじだと思う。
「たかがひとり」のお客さんを大事にできなかったら、お店のお客さんだれも大事にできない、って思う。
でも、その常連さんが怒った話は、おばさんたちのあいだでは「どーでもいー」事件になってた。
店長にもそのこと伝えたけど、店長は、
「お客さまからの要望はちゃんと担当者に伝えること」
って言っただけだった。
だからみんな、その注意が書かれたノートにテキトーにサインして、それでおわり。
毎晩毎晩3000円の買い物してくれてたお客さんがもー来ない、ってことは、「大事件」にならなかった。
そのおじさんは、毎晩買い物に来た時、レジの人といろいろしゃべっていく人だった。
「ここは感じがいー人と悪い人がいるね」
って言ったこともあった。
私とか男子たちは、そのおじさんとよくおしゃべりした。
おばさんたちにはあまり好かれないタイプの男の人だったから、たぶん、感じの悪い接客したのはおばさんたちだと思う。
私たちだって、おしゃべりが好きだからした、っていうんじゃないし。
夜中来るお客さんの中には、だれかとしゃべりたい、っていう人もいる。
それで一晩になんども来て、レジで立ち話していくおじさんとかもいる。
「あのおじさん、おしゃべり好きだよねー」
って、次郎君やブルータスたちと言うことあるけど、そのお客さんはそれだからうちに来る、ってわかってたから、私たちはヒマだとおしゃべり相手になってた。
そーいうことしてても、それを壊す従業員がいれば、おしまい。
うちのおばさんたちってバカじゃないの?
って思うのは、自分のお給料がどーやって発生してるか、ぜんぜん考えてないおばさん多いから。
おばさんの時間帯にいろいろ発生してる苦情は、どれもこれから改善できる。
改善しないと売り上げなんてあがらないし。
っていうか、今の常連さんたち、これからも減らすことになるし。
でも、そーいう危機感、おばさんたちはぜんぜん感じないで、時給が下がった文句ばっか言ってる。
オーナーがもううちを閉店させたがってるの、わかる。
私は、閉店までいよーかなー、って思った。
ひとつの店がどーダメになっていくか、見れるから。
せっかく、地元でちゃんとやれてた店が、どんなふーにダメになっていくのか、見てみたい気がするから。
若いDQNがやるすごいバイトテロで潰れるんじゃなくて、フツーの主婦の「仕事なめてる」穏やかなテロで潰れていく店、って感じ。