音をひろって
ふたご座の 夜空見あげて 流れ星 ねがいはひとつ 口にはできない
すっごい星が見えて、ふたご座ってどこー?って思ったら、すっごいわかりやすいとこにあって、あれだよねー、って見てたらその横でツーッて星が流れた。
流れ星って、心の中で音がするよね。
ときどき行くある場所で、キーンっていう金属音みたいなのが聞こえる。
ずっと、キーーーーーーーーーーーーンって鳴り続けてるから、私は気分悪くなって、頭痛くなって、そこから離れる。
でも、ほかの人はずっとそこにいれるからフシギ。
店員さんもフツーにそこにいる。
だれもあの「キーーーーーーーーーーーン」で頭痛くならないのかな。
私の頭がおかしーのかな。
私はぜったい、そこにジッとしていれなくなる。
それぐらい、なんか脳に直撃してくる。
自分の幻聴なの?って、そこ行くたびに自分に不安になる。
この前、お母さんと車でドライブスルーのお店でコーヒーだけ買おうと思って寄った。
お母さんが運転してて、私が助手席。
お店の人がスピーカーから、注文を聞いてきたから、
「ホットコーヒーのエスサイズをふたつ、おねがいします」
って、お母さんが頼んだ。
そしたら、
「もいちどおねがいしますー」
って、返ってきた。
「ホットコーヒーの、エス、のほーのサイズを、ふたつ、おねがいします」
って、お母さんがゆっくり言い直した。
そしたらすぐに、
「もいちどおねがいします!」
って、返ってきた。
「ホットコーヒー、の、ちいさいほーの、サイズ、ふたつ、ください」
って、お母さんがまた、ゆっくり丁寧に言い直した。
でも、マイクがおかしーのかあっちにぜんぜん伝わってなくて、またすぐに、
「なんのセットですかー?」
って、聞き返された。
セットなんてぜんぜん頼んでないのにねー。
って、お母さん、苦笑して、もーいちど言い直そーとした。
そしたら、お母さんが、
「ホットコー」
まで言ったところで、
「なにですかー?」
って、聞き返された。
それでまた、
「ホッ」
って言いかけたところで、
「商品名、おねがいしますー」
って、言い返された。
「マイクが聞こえてないのかしらー」
って、お母さんがぶつぶつ言って、もー一度、窓から顔だしてマイクに近づけて、
「ホットコーヒー」
ってとこまで言ったら、
「大きい声でおねがいします!」
って、あっちがキレてきた。
こっちが言いかけるとすぐに言い返されたら、聞こえないよねー、って、私は助手席でムッとした。
お母さんはしょーがないから、またゆっくり、丁寧に言い直した。
「ホットコーヒーの、エ、ス、サイズ、のを、ふ、た、つ……」
って途中までゆっくり言ったところで、
「もういちど、はっきりおねがいします!」
って、キレられた。
また途中でさえぎられたしね。
ぜんぜん聞こえてないみたいだしね。
それでお母さん、
「ホットコーヒー!」
「エスサイズ!」
「ふたつ!」
って、区切ってすごい大声だした。
そしたら相手が、
「は、はい」
って、なんでかすごい焦った声で返してた。
「やだ、キレたと思われちゃったかな」
ってお母さんが気にして、窓口まで進んだら、バイトのおにーさんがすっごい慌ててドリンク用意してた。
ドリンク入れたカップにストローさしながら、小走りで窓口まで来たからねー。
「お母さん、キレたと思われてるよ」
って、私が言ったら、
「そーだよね。悪いことしちゃった」
って、お母さんも焦ってた。
それで窓が開いたら、私とお母さん、すっごいスマイルでバイトのおにーさんに笑顔向けた。
「コ、コーラ、おふたつですね」
って、エスサイズのコーラをふたつ渡してこよーとした。
違うし。
コーヒーだし。
って、私とお母さん、無言で思ったけど、おにーさんはお母さんがキレたと思って焦ってる、って見えたから、
「コーラじゃないの。ごめんね。コーヒーをおねがいしたの」
って、お母さんがすっごい笑顔で優しく言った。
私も助手席から意味なくすっごい笑顔だけ向けてた。
そしたら、そのバイトの人、またすっごい焦って、謝って、コーヒー入れ直してきた。
「お、お砂糖とか入れますか?」
って聞いてきたから、
「ひとつはなにもいれないで、ひとつは砂糖1本だけ入れて。あ、でも自分で入れるからお砂糖だけちょうだい」
って、お母さん、私と弟にはぜったい言わないよーな優しい声で、すっごい笑顔で答えた。
私も隣から、
「自分でいれますー」
って、すっごいにこにこ笑顔向けた。
でも、レジをコーラで打っちゃったみたいで、コーヒーに訂正するのがわからなかったみたい。
名札みたら、新人の印があった。
そしたら社員らしー男の人が、
「どうしたの?」
って奥から来て、
「コーラとコーヒーと間違って打っちゃいました」
って、そのバイトが説明したら、社員らしーおじさんが、
「申し訳ありませんねー」
って、お母さんに笑顔で謝って、すぐレシートを出し直してくれた。
「聞き取れなくてごめんなさいね」
って、お母さんがバイトのおにーさんにまたすっごい笑顔で謝った。
私も、おにーさんが焦ってたら悪い、って思ってたから、
「コーヒー、ありがとーございますー」
って、すっごい笑顔で挨拶した。
それで車をゆっくり走らせたら、後ろから、
「こんなミスしてんじゃねーよ!」
って、社員らしーおじさんの怒る声が聞こえた。
びっくりして振り向いたら、窓閉めないまま、バイトのおにーさんがすっごい怒られてた。
社員のおじさんの怒り方は、すっごい言葉が怖かった。
「やだ。悪いことしちゃった」
って、お母さんがすごい気にしながら、車出した。
私も、なんかバイトの人に悪いことした気になった。
ドライブスルーのマイクが調子悪かったんだと思う。
それであっちも、必死で聞き取ろーとして、言葉がきつくなったんだと思う。
お母さんも、はっきり伝えよーとして、言葉がきつい言い方しちゃって。
それでバイトの人があんなに焦ったのは、お母さんを怒らせた、っていうより、お店の上司に怒られるからだったのかなー、って思った。
あんなに怒らなくてもいーのにね。
お客に聞こえるとこで、あーいう怒り方するのって、お店のイメージが悪くなるだけなのにね。
って思ったけど、でも、バイトのおにーさんにしてみれば、お母さんにキレられたと思って、上司にも怒られるって思って、二重で焦ったよねー、って気の毒になった。
「キレたんじゃないよー、って言いたくて、ものすごい笑顔向けちゃったけど、あっちにしてみれば、おばさんににこにこされて気持ち悪かったかもねー」
って、お母さんが気にしてた。
「私もものすっごい笑顔でこっちからあの人、見ちゃったよ。なんだこのスマイル親子、って思っただろーね」
って、私も悪いことした、って思った。
上司に怒られたことより、ヘンな親子にすっごい笑顔向けられたことがトラウマになったかもね。
って思ったら、ほんとにあのバイトの人が可哀相になった。
それもこれも、マイクのせいだから。
音って、聞こえなくていー音が聞こえたり、聞こえてほしー音が聞こえないと、いろいろ問題。