ハルキダイアリー
風の歌 聴いてる私 そこはどこ 10円玉で 日本ってわかった!
春樹おじさんの「風の歌を聴け」、まだ読んでるー。
読むの遅すぎ。
でも、登場人物の名前がわざと出てこないし、いろいろなんかアメリカみたいって思って、文体も翻訳された感じだし、セリフはすっごいキザだし。
だから、日本人が書いてるけど、これアメリカ小説みたいに書いてるんだ、って思って読んでた。
子供の時から親に精神科のカウンセリング受けさせられてるし。
その精神科、いつも出してくれるお菓子がドーナツとかコーヒー・ロールで、お煎餅とかアンパンじゃないし。
そしたら10円玉が出てきた。
日本人でこんなキザキザした会話してる大学生って、昔はフツーにいたの?
「ねえ、昨日の夜のことだけど、一体どんな話をしたの?」
すっごい酔っぱらってぜんぜん記憶がなくなってる女の人が、21歳の大学生の主人公に聞くの。
そしたら、その「僕」は、
「いろいろ、さ」
って答えて。
「ひとつだけでいいわ。教えて。」
「ケネディーの話。」
「ケネディー?」
「ジョン・F・ケネディー。」
私よりひとつ下の大学生の話の「いろいろ」に入ってるケネディー。
思わず風の歌、聞いちゃうよねー。
って思った。
スプリさんから、
「風の歌はもう読み終わった?」
って、聞かれたから、
「まだー(;_;)」
って、メールしたら、
「次は国境の南、太陽の西。それ早く読んでほしいから、読書頑張って」
って、メールが返ってきた。
読書、頑張らなくちゃいけなくなってる(;_;)
私の好きな先生、ハルキストだったけど、ほんとにハルキストだー、って思った。
この「風の歌を聴け」で、主人公の「僕」がレコード買いにいくシーンがあるけど。
「それからベートーベンのピアノ・コンチェルト3番。」
って、店員に言ったら、店員は2枚のLP持ってきて、「僕」に聞くの。
私の先生、ベートーベンのピアノ・コンチェルトが好きって話してくれた時、グレン・グールドがいちばん好き、って言ってた。
それで、お母さんがクラシックのCD、いろいろもってるから、うちにもベートーベンのピアノ・コンチェルトあるかなー、って見たら、うちのはバックハウスのだった。
お母さんに、
「グレン・グールドって知ってる?」
って聞いたら、お母さんは嫌いだって。
グレン・グールドを好き、って言う人のタイプが嫌いなんだって。
お母さんはバックハウス派。
お母さんはアンチハルキストなのかも。
私はピアニストって、キース・ジャレットしか思いつかなくて、ベートーベンのピアノ・コンチェルトって「皇帝」しか、すぐにメロディー浮かばないし。
春樹のおじさんの書くものに出てくるいろいろを、すぐに全部わかるよーにならないと、ハルキガールになれないねー。
自分の日記を春樹のおじさんみたいに書くのも、面白いよねー。
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※これは実話です。
完璧な洗濯などといったものは存在しない。完璧なおばさんが存在しないよーにね。
私はウエスを、レジの中の流しで漂白してみた。
素敵な洗濯だった。
「漂白なんてしてもムダさ。」
店長はそう言った。
レジで、だれかがストアスタンプ押し忘れたクーポン券を苦々しく見つめて。
いつだって、だれか、ストアスタンプを押さなくちゃいけないのに忘れる。
それは、うちの店の日常だった。
私は、漂白中のウエスを割りばしでかきまわしながら、時給はもうあがらないのかなー、って思っていた。
「こんなのはどうだい?そのウエスを漂白してるあいだ、返本処理やるってのは。」
「ねえ。ちょっと待って。それって、マダム・ポンパドールの仕事だったはずでしょ。」
「そりゃね。」
店長はストアスタンプを自分で押してたけど、インクがかすれてるのにため息ついてた。
「確かにそれは、マダム・ポンパドールの仕事だったさ。でも、今日はマダム・ポンパドールはまだ来てないんだぜ。これで遅刻連続だ。」
指にインクをつけながら、店長はストアスタンプの数字をなんとか濃くしよーと格闘してた。
そこで、私を見た。
文明とは以心伝心である、と彼は思っていた。
この状況を察しろよ、ってことだ。
いーかい、このインク、どーにかしてくれよ。店長の目はそー語っていた。
私は深く息を吸った。
おでんの匂いがした。
なんでそんなに匂ったかって知りたいかい?大根とちくわぶがそろそろ廃棄の時間だからさ。
私は割りばしで、ウエスをもう一度、キッチンブリーチをたっぷり入れた水に沈めた。
うしろで、なにか振動がする。
ブリーチの水に輪っかがひろがる。
そう、ジュラシックパークのコップの水のあれみたいにね。
ゆっくりと振り向くと、外ゴミを捨ててたカトリーヌさんがこっちにどすどす向かってくるところだった。
店長は、インクで汚れた指をまだうんざりして見つめていた。
私は、ストアスタンプのインクを補充してあげるべきだったのかもしれない。
文明とは伝達である、と私は思った。
ここで、「それ、やりますよー。」って言わないのなら、それはやらないのも同じだ。
いいかい。店長の指はインクにまみれたままだ。
そして、私の指はジャムおじさんが焼き忘れたアンパンマンの顔みたいにまっ白だ。
ウエスが沈んでるブリーチ水に、また輪っかがひろがった。
あれが来る。
私は、店長をほっといて、返本処理でもしよーかと考えた。
しかし、時は余りにも早く流れる。
レジの中にカトリーヌさんが入ってきた。
どすどすとね。
そして、どうしたと思うかい?
彼女は手を洗ったんだ。
目の前の流しで、水道をひねって、たっぷり水出してね。
その水が、外ゴミで汚れたカトリーヌさんの指から跳ね散った。
そのほとんどは、ウエスが沈んでいるブリーチ水の中に垂れてった。
そうだ。カトリーヌさんの指にたっぷりとついた汚れが、漂白してる液体にまみれて、ウエスと一緒に沈んだのさ。
最後にもう一度、完璧な洗濯ってやつを語ろう。
キッチンブリーチってのは、文明が生み出した優れた液体でね。
ウエスの雑菌に「くたばれ。」って言うんだ。カレーパンマンの頭からふきだすカレーの威力、知ってるだろー?あれみたいなものだ。
そこに、カトリーヌさんの菌がまき散らされたんだぜ。
だれが、そんな1日になるって想像できたかい?
「それ、漂白中なんですけど。」
私は言ってみた。言ってどーなるか、期待なんてしてなかったけど、なにか言わなくちゃいれない気分になったんだ。
「見ればわかるけど。」
カトリーヌさんは、鼻で笑い返してきた。いつものよーに、鼻の穴の奥まで丸見えにさせてだ。
いいかい。しつこくもう一度、言うよ。
完璧な洗濯を、もし君がしたいならさ。
それはカトリーヌさんがいない世界でやれよ、ってことだ。
この世で大事なことは、それぐらいしかない。
店長の指がインクまみれなんてことは、それにくらべたら大したことじゃない。