常連のおじさん vs おばさんパート
「おいタバコ」 「何番ですか」 「いつものだ」 あなたの「いつも」 他人は知らない
常連のお客のタバコはだいたい覚えてる。
だから、来店するとすぐにレジに出して待ってる。
毎回個数だけ違うお客さんは、レジに来る時、指で個数示してくる。
時々、常連じゃないのに、
「いつもの」
って言ってくるお客もいる。
こっちが聞いても、銘柄や何番かぜったい言ってくれないおじさんもいた。
しょうがないから、端っこからひとつずつ、
「これ?これですか?」
って、当たりが出るまで聞いてった。
それでやっと当たると、
「オレはいつもこれなんだよ。覚えとけよ」
って言われた。
常連のおばさん客は、タバコをカートンじゃなく1個か2個買っても、カートン買いの時についてくるライターを欲しがる。
「カートンにお付けしてるものなので」
ってちゃんとお断わりしてたら、名指しでクレームが入った。
いつも買ってるお客にライターもサービス出来ないなんて感謝の精神がない、って。
私だけじゃなく、お断わりした従業員たちはみんな名指しでクレーム入れられてた。
店長がめんどくさがって、
「あの人には黙ってライターあげて」
って言うようになった。
クレーム勝ち。
早朝に新聞買いにくるおじさんやオジーサンたちは、新聞だけだとぜったいレジに並ばない。
レジから離れてる新聞売り場から、レジに向かって取った新聞振って、
「お金、ここ置いとくよ」
って、新聞ラックに乗せて帰る。
他のお客の対応してるレジに、横から新聞代投げて、
「これね」
って帰る人も多い。
なんの新聞か見えてないし。
だから、常連が買う新聞も覚える。
レジ対応しながら、横から何人も新聞買っていくと、なにが売れたか、他のお客のレジ打ちながら覚えておかなくちゃいけない。
カトリーヌさんは常連の買い物をぜったい覚えないので、
「ミカサ、新聞がいくつか売れたみたい」
って、そこらへんに置かれた小銭を集めて持ってくるだけ。
私も来店を確認した常連さんのはどの新聞かわかるけど、わからない時は、納品された数から新聞ラックに残ってる数ひいて、ひとつひとつどの新聞がどれだけ売れたか確認して、あとからレジに打ち込む。
新聞の納品の数は日によって違うけど、それはレジにいた人がノートに記録して売り場に出すことになってる。
カトリーヌさんはよく、ノートに書くの忘れて売り場に出すから、それだと新聞の売り上げもわからなくなる。
店長から何度も怒られてるのに、ぜったいなおらない。
カトリーヌさんと組むと疲れるのは、カトリーヌさんがちゃんと仕事してるか、組んだ相手がいちいち確認しなくちゃいけないから。
女のお客さんは、食べ物買う時は賞味期限を見て買う人が多い。
売り場は新しく納品されたものは奥に入れるから、手前のほうが期限は短い。
だから、女のお客は奥から取ってくる人ばっか。
うちのおばさんのパートたちは、それをすごい怒る。
お惣菜とかサンドイッチとか期限の短いのを、奥から取り出して買うお客のことも嫌う。
奥から買う女のお客は、うちのおばさんたちにほんとに嫌われてる。
すっごいひどいあだ名つけられて、
「また来たよ」
って目配せされてる。
ただ、棚の奥から出すだけで、態度とかぜんぜん悪くもないし、いろいろ買ってくれるいいお客さんなのに。
でも、お客の立場になれば、少しでも日持ちしたほうがいいし、おなじお金出すなら、鮮度のいいもの買いたいのはフツーだと思う。
お店としては廃棄出したくないのもわかるけど、棚の奥から買うお客を怒るのは違う気がする。
夜中に買いにきた男のお客から、お弁当を温めなくていいって言われると、朝ゴハンかもしれないから、期限を見る。
朝のうちに期限切れちゃうものだと、
「これ、何時頃召し上がりますか。期限がこの時間までなんですけど大丈夫ですか」
って確認する。
起きて食べようとしたら期限が切れてたなんて悲しいと思うから。
でも、おばさんたちからは、それやっちゃダメって言われてる。
期限を確認するのはお客の自己責任なんだから、廃棄になりそうなお弁当が売れるの邪魔したらダメ、って。
そうかもしれないけど、私はやっぱ、仕事の帰りに夜中に朝ゴハン買っといて、そのゴハンが起きてから食べられなかったら、すごいショックだと思う。
わざわざ帰りに買っといた意味ないし。
男の人は帰ってすぐ食べるお弁当は、だいたいお店で温めていく。
あっためなくていい、っていうのは、朝食だと思う。
ほかのお店は知らないけど、うちのお店は、常連のお客はおばさんパートの人たちからはあまり良くは言われない。
おばさんたちに人気ある常連もいるけど、好かれてない常連のほうが断然多い。
どのお客もあだながつけられてるけど、あんまりいいあだ名じゃない。
おばさんたちは、お客の悪口をすっごい言う。
男の人の体臭のこととか、財布が貧乏くさいとか、女のお客は白髪染めしてないとか、買い物とぜんぜん関係ない悪口がすごい。
嫌いな女のお客が来ると、客層ボタンを50代以上押してやった、とか言ってる。
客層ボタンの意味、わかってないし。
嫌いなお客にはすっごい冷たい態度になったり、まだ店にいるのにコソコソ悪口言ったりしてる。
私はこの仕事するようになって、こういう店で常連になるのって危険だと思った。
常連ってお店にありがたがられるものだと思ってたけど、うちのお店のおばさんたち見てると、常連のお客たちが可哀相になる。
常連だからって威張るお客もいるけど、いつもたくさん買ってくれるいい常連も多い。
でも、自分たちがどんなあだ名で呼ばれてるか、それ知ったら二度と来ないと思う。
私もこのお店にお客で来てたら、ヘンなあだ名つけられてたと思う。
ここで働くようになってから、おばさんばっかレジにいるお店に買い物に行くのは怖くなったし。
常連で威張るイヤなお客と、常連をあだ名で悪口言うパートと、どっちもどっち。
でも、お客の悪口を言うお店って、言われてないお客にとってもイヤな店だと思う。