ブラック
アルバイト つまりはただの アルバイト 正社員より 格安奴隷
店長から、
「ミカサ、もっと稼ぎたいだろ、うち、やっすいから」
って呼び止められた。
「時給あげてくれるんですか♪」
って聞いたら、
「時給はひとりだけ特別に出来ないんだよ」
って言われた。
「ミカサ、もう他に就職しないんだろ。うちで働くしかないんだろ」
って言われたから、悲しかったけど、
「たぶん、そーです」
って答えた。
「あ、正社員にしてくれるんだ♪」
って言った。
正社員ならボーナスもあるし、もっと稼げる。
「正社員になりたいならハロワ行きな。それかオレの嫁になるなら正社員ってことになるのかな」
って言われたから、
「えー、プロポーズ!?」
って叫んだ。
すごいイヤな叫び声で。
「バーカ。仕事の話だよ、おまえをもっと入れてやろうと思って」
って言われた。
その瞬間、イヤな気がした。
「うち、忙しい時だけの補充のバイト募集してただろ。でもやっぱ、いつ忙しくなるか決まってないから、誰も来ないんだよ」
時給もやすいからね、って私は付け加えたくなった。
「そしたらカトリーヌさんが、もっと稼ぎたいっていうからさ。だから、カトリーヌさんとミカサを補充要員にすることでいいな」
なんで、そこに私も入ってるのかわからない。
それも、また事後承諾、だし。
「そしたら通常のシフトの他に、入れられる、ってことですよね」
って聞いたら、
「そーだよ。だから時間増えるから稼ぎも増えるだろ」
って言われた。
「それ、カトリーヌさんだけでいいですよ。私、これ以上1日に入れられるシフト増えたら帰れなくなる」
って断った。
「帰るのがめんどうな時は事務所にいればいいじゃん。それか上のオレの部屋で寝ててもいいよ」
アルバイトなのに泊まり込み。
それも店長の部屋とかイヤすぎる。
ワタミよりブラックな気がした。
「補充で私入れなくていーです」
「いーです、じゃなくて、もうそう決まったから。うちもそれじゃないと困るんだよ」
「じゃあ、ぜんぶカトリーヌさん入れてあげてください」
「だってあの人、シフト次第で入れない時もあるでしょ。そういう時はミカサ入れるんだよ」
私だって、シフト次第でムリ、って時、あるのに。
なんで、入りたがってるカトリーヌさんにはシフトの考慮してあげて、入りたくない私はこれ以上地獄にされるのかわからなかった。
「ミカサ、帰ったってほかにやることないんだろ。いーじゃん。働けば金になるんだから。家にいると金使うだけだろ。電気代だってかかるだろ。暑い時は店のほうが涼しいだろ」
「働かないで暑い部屋でごろごろしてたほうがいーです」
って言ったけど、
「親泣くよ」
って言われて、店長の話はおしまいになった。
こんな猛暑に一日になんども往復すると、ほんとに死ねる。
でも、シフトとシフトの間も店にいるなんてぜったいイヤ。
店長の部屋なんて論外。
でも、さっそくこれから、補充で4時間働かされてくる。
働きたいのに仕事がない、ってニュースにもなるけど、こういう時給が安くて細かい時間の仕事は人手不足。
だから、おなじ業種の他店も、時給が安い時間帯ほどいつも募集がかかってる。
時給をファミレス並みにあげればいいのに。
そしたら学生とかもっと来るのに。
固定してない短い時間でも働けるのって学生のほうが多いと思うけど、学生はほかにもっと時給高いバイトがいくらもあるからね。
結局うちみたいなとこは、ほかで雇ってくれないようなおばさんやおじさんばっか来る。
それで時給が安いのをバカにして、仕事もちゃんとしてくれない。
私みたいにいいように使われて、私よりもっと有能な人は、みんなすぐやめてってる。
人件費ケチるのって、結局いろいろな部分で質が落ちて、会社的にはすっごい損すると思うのに。
カトリーヌさんの勤務時間を増やすなんて、どんな利益が会社にあるのか、私にはぜんぜんわからない。
私のおなかの中もブラック。